交通死亡事故の示談金について~支払われるお金の種類と支払いのタイミング
交通事故で被害者が死亡してしまったら、遺族が加害者へ「損害賠償請求」を行う必要があります。損害賠償請求の多くは「示談」によって行われ、示談が成立したときに「示談金」が支払われます。
死亡事故というと「慰謝料を請求する」イメージが強いかもしれませんが、実は慰謝料は交通事故の損害賠償金・示談金の「一部」にすぎません。
交通事故で示談交渉を進めるときには慰謝料だけではなく「どのような種類の賠償金を請求できるのか」を知っておくことが非常に重要です。
今回は交通死亡事故で被害者側が請求できる損害賠償金の種類や支払われるタイミングについて、茨城県で交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士が解説します。
目次
1.示談金、損害賠償金、慰謝料の違い
交通事故で相手に請求できるお金には「示談金」「損害賠償金」「慰謝料」など複数あるので何が違うのか混乱している方もおられます。
まずは上記のお金の意味やそれぞれの違いを理解しましょう。
1-1.慰謝料とは
一般には「交通事故に遭ったら慰謝料を請求するものだ」と思われているケースが多々あります。それだけなら間違いとはいえませんが「交通事故で慰謝料しか請求できない」と思っているなら間違いです。
慰謝料は被害者や遺族が受けた「精神的苦痛に対する賠償金」です。死亡事故が発生すると被害者自身は無念な思いを抱いて大きな精神的苦痛を受けますし、遺族も大切な家族を失って精神的苦痛を感じます。その苦痛を少しでも和らげるため、金銭的な賠償金としての慰謝料をするのです。
死亡事故では慰謝料以外にもさまざまな賠償金が発生します。たとえば葬儀費用や逸失利益が代表的です。被害者が亡くなるまでに治療を受ければ治療費や入院雑費、付添看護費なども損害となります。
このように「慰謝料は損害全体の中の一部」であることを、まずは押さえておきましょう。
1-2.損害賠償金とは
損害賠償金は、交通事故で被害者が加害者へ請求できるお金です。
交通事故に遭うと被害者はさまざまな損害を受けます。たとえば葬儀費用、逸失利益、慰謝料、治療期間が発生したら治療関係費や休業損害も発生します。
このような損害をすべて合計したものが「損害賠償金」です。
実際に損害賠償金が支払われるときには、損害の合計額から被害者の過失割合分が差し引かれます。
1-3.示談金とは
示談金は、被害者と加害者側との間に示談が成立したときに加害者側から支払われるお金です。
示談とは、損害賠償の方法を加害者と被害者が話しあうことです。示談で取り決めるのは「損害賠償金」なので、示談で解決するケースでは「示談金は損害賠償金と同じ」になります。損害賠償金と同じなので示談金には慰謝料も含まれ、慰謝料は示談金の一部となります。
ただし示談が決裂して訴訟などの他の手続きで損害賠償をするときには、支払われる損害賠償金は示談金とはいいません。
以上、損害賠償金の内訳をみていく前にまずは慰謝料と示談金と損害賠償金の意味や違いを理解しておいてください。
次項以下で死亡事故の損害賠償金・示談金の内訳や種類を確認していきましょう。
2.死亡事故の損害賠償金(示談金)の種類は即死したかどうかで異なる
死亡事故の損害賠償金の内訳や種類は「即死したケース」と「しばらく治療を受けたけれども回復せずに死亡したケース」で異なります。上記のどちらのケースでも支払われる賠償金と、一定期間治療を受けた後死亡したケースでしか発生しない賠償金があります。
それぞれについてみていきましょう。
3.即死事案のケースで支払われる賠償金
死亡事故で被害者が即死した事案では、以下の損害賠償金が発生します。治療を受けてその甲斐なく死亡した場合でも、以下の3つの損害賠償金は支払われます。
- 葬儀費用
- 死亡逸失利益
- 死亡慰謝料
3-1.葬儀費用
葬儀費用は、被害者の葬儀にかかった費用です。死亡しなかったら葬儀を出す必要はなかったといえるので葬儀費用と死亡事故に因果関係が認められ、相手に請求可能です。
葬儀費用として認められるのは以下のような費用です。
- 葬儀社に払う費用
- 戒名代、読経代
- お花の費用
- 仏壇仏具購入費用
- お墓の建立費用
- 遺体搬送費
基本的には150万円を限度として実際にかかった金額が支払われます。
ただし状況に応じて必要と認められれば200万円程度まで増額を認めてもらえるケースもあります。保険会社の提示金額に納得できないときには訴訟をすると高額な葬儀費用が認められる事例が多数あります。
3-2.死亡逸失利益
死亡逸失利益は、被害者が死亡したことによって得られなくなった将来の収入です。
被害者が死亡するとその後は一切働けなくなるので、生涯収入が大きく低下します。その減収分を「逸失利益」として相手に請求できます。
死亡逸失利益の計算方法
人が仕事をできる年数は限られているので、通常は「67歳まで働く」ことを前提に死亡死亡逸失利益を計算します。人が働ける年数を「就労可能年数」といいます。
また被害者によって収入が異なるので、被害者の事故前の収入と年齢によって死亡逸失利益の金額が変わります。
さらに被害者が死亡すると「生活費」がかからなくなるので、生活費が不要となった分については死亡逸失利益から控除されます。
死亡逸失利益の計算式は以下の通りです。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、将来にわたって段階的に発生する収入を当初に一括で受け取る利益を調整するための特殊な係数です。
死亡逸失利益の金額は、5,000万円を超えることが多く1億円以上になるケースも少なくありません。
死亡逸失利益を請求できる方
死亡逸失利益は「事故によって得られなくなった収入」なので、請求できるのは基本的に「事故前に労働収入があった方」です。サラリーマン、自営業者などの方です。
ただし主婦や主夫などの家事労働者の場合には家事労働に経済的な対価性があるので、逸失利益を請求できます。
また子どもは将来就職して収入を得る蓋然性が高かったといえるので逸失利益を請求できます。学生も逸失利益を請求できるケースが多数です。
さらに事故当時たまたま失業していた方の場合には、就職する蓋然性が高く実際に働く意欲と能力があったと認められれば逸失利益を請求できます。
年金生活者にも死亡逸失利益が発生します。
逸失利益を請求できないのは、事故前に無職無収入だった方、生活保護受給者の方などです。
不動産収入や株式の配当収入などの不労所得によって生活されていた方も基本的に死亡逸失利益が発生しません。
役員や経営者など収入に労働以外の対価(利益配当部分)がある方の場合、労働対価部分についてのみ逸失利益を計算します。
3-3.死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が死亡したことによって被害者自身や遺族が受ける精神的苦痛に対する賠償金です。死亡事故の場合、被害者だけではなく遺族にも固有の慰謝料が認められます。
交通事故で死亡したときに受ける苦痛は万人に共通なので、事故前に仕事をしていたかどうか、性別、年齢などにかかわらず誰でも死亡慰謝料を請求できます。ただし被害者に扶養者がいた場合、遺族の分の苦痛が大きくなるので慰謝料が増額されます。
死亡慰謝料の金額の法的な相場は以下のとおりです。
- 被害者が一家の支柱だったケース…2800万円
- 母親、配偶者だったケース…2500万円
- その他のケース…2000万円~2500万円
上記はあくまで相場であり、ケースによって認定される慰謝料額は異なります。事故が悪質な場合や加害者が不誠実な場合、親族が精神疾患となった場合などには慰謝料が増額される傾向があります。
4.治療を受けたが甲斐なく死亡したケースで支払われる賠償金
交通事故に遭った被害者が病院などで治療を受けたけれども、甲斐なく死亡したケースでは、上記の「葬儀費用」「死亡逸失利益」「死亡慰謝料」に足して以下の賠償金が認められます。
- 治療費
- 付添看護費用
- 入院雑費
- 交通費、宿泊費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
4-1.治療費
病院で治療を受けた際にかかる費用です。診療費、投薬費、検査費、入院費用などすべてが含まれます。認められるのは必要かつ相当な実費です。通常の治療にプラスして高額・濃厚な治療を受けた場合や個室ベッド代の差額などは基本的に被害者の自己負担となります。
4-2.付添看護費用
被害者の親族が入院中に被害者に付き添った場合、付添看護費用として1日あたり6,500円程度を加害者側へ請求できます。親族が働いていて1日6,500円を超える休業損害が発生した場合には実際の休業損害を請求可能です。ただしその場合でも職業看護師に付き添ってもらう際に必要な金額を超えることはできません。職業看護師の費用はだいたい1日1~2万円程度です。
4-3.入院雑費
入院雑費とは、入院中にかかるさまざまな物品購入費です。ガーゼやマスク、テープや紙コップなどを購入する費用と考えると良いでしょう。入院雑費として認められるのは1日当たり1,500円です。
4-4.交通費、宿泊費
交通事故で被害者が病院に搬送されたとき、親族が病院に通う際に交通費や宿泊費がかかったらそれらの費用も交通事故によって発生した損害として相手に請求可能です。
公共交通機関だけではなくタクシー代も請求できますし、自家用車を使った場合には1キロメートルあたり15円のガソリン代を請求できます。
4-5.休業損害
被害者が有職者だった場合、入院中は働けないので休業損害が発生します。交通事故で働けなくなった事による損害は、死亡後は「逸失利益」として計算しますが死亡前は「休業損害」として計算します。休業損害の金額は、以下のとおりです。
- 事故前の1日あたりの基礎収入×休業日数
亡くなるまでずっと入院していた場合には期間中すべての日数を算定の基礎にして計算します。
4-6.入院慰謝料
死亡前に入院した場合、別途入院慰謝料を計算して相手に請求可能です。これは「けがをして入院治療が必要になったことによる慰謝料」であり「死亡したことによる慰謝料」としての死亡慰謝料とは別の慰謝料です。つまり死亡前に入院期間があると、死亡慰謝料と入院慰謝料の合計が支払われます。
入院慰謝料の金額の相場は以下のとおりです。
入院期間 | 入院慰謝料の金額 |
---|---|
1か月 | 53万円 |
2か月 | 101万円 |
3か月 | 145万円 |
4か月 | 184万円 |
5か月 | 217万円 |
6か月 | 244万円 |
7か月 | 266万円 |
8か月 | 284万円 |
9か月 | 297万円 |
10か月 | 306万円 |
5.その他の損害
死亡事故では、上記以外にも以下のような損害が発生します。
- 自動車やバイク、自転車などの物損
死亡事故では被害者が乗っていた自動車やバイク、自転車などが壊れるケースも多いですし、被害者が身に付けていた衣類やパソコン、スマホ、メガネなどの持ち物が壊れるケースもあります。こうした物損についても相手に請求可能です。 - 文書料
診断書を取得するための費用などです。 - 事故証明書の取得費
交通事故証明書を取得する際にかかる費用です。 - 医療関係資料の取得費
診断書、診療報酬明細書、レントゲンやCTの資料などの医療関係資料を取り寄せるための費用も相手に請求できます。
6.損害賠償金はいつ支払われる?受け取れるタイミングについて
死亡事故の損害内容が確定するのは、被害者が死亡したときです。では被害者が死亡したらすぐに上記の賠償金を全額払ってもらえるのでしょうか?
答えはNOです。
交通事故の損害賠償金を受け取れるのは以下のタイミングです。
6-1.示談が成立したとき
示談で損害賠償問題を解決するケースでは、示談が成立したときにまとめて示談金が支払われます。
遺族の代表者と保険会社の担当者が話し合いをして合意できたら、保険会社が示談書を作成して遺族側へ送付してきます。遺族側が署名押印して保険会社に返送すると示談が成立し、速やかに保険会社が銀行送金によって示談金を全額一括で入金します。入金先は遺族の代表者名義の銀行口座になるのが通常です。
死亡事故発生後、示談が成立するまでの期間はケースによって異なります。だいたいは被害者の49日の法要が済んでから示談交渉を始めますが、スムーズに進めば2~3か月で示談が成立するケースもあります。なかなか合意できずにもめてしまったら半年以上かかるケースもあります。
示談が成立するまでの間は賠償金が支払われないので、たとえば葬儀費用などの一部を先に受け取ることはできません。
6-2.示談が決裂した場合
示談が決裂すると、賠償金が支払われるタイミングがさらに遅くなります。
ADRや訴訟などによって賠償問題が解決するまで一切支払われないからです。判決が出るまで一切賠償金が支払われませんし、控訴したらさらに長くかかります。
示談決裂後訴訟となり、長びいたらお金が支払われるまで1年以上かかるケースも少なくありません。
6-3.物損と人身損害で示談成立時期が違うケースが多い
死亡事故でも車の損壊などの物損が発生するものですが、物損部分と人身損害部分については別で示談交渉が進められます。保険会社には物損担当と人身損害担当があり、それぞれ異なる担当者との交渉になるのが通常です。
物損部分については、通常人身損害よりも早く示談が成立します。
損害賠償金(示談金)が支払われるタイミングも人身損害より物損の方が早くなるケースが多数です。
6-4.自賠責保険の被害者請求について
上記は任意保険会社から支払われる損害賠償金が支払われるタイミングですが、被害者の遺族には自賠責保険へ自ら保険金を請求できる権利が認められています。
自賠責から受け取れる金額は損害の全額ではありませんが、葬儀費用や生活費などに困っているケースでは先に自賠責保険からの保険金を受け取ると助かるでしょう。
自賠責の保険金は任意保険会社との示談が成立しなくても支払われるので、早い時期に受け取ることも可能です。
ただし先に自賠責から保険金を受け取ると、後の示談の際に任意保険会社から支払われる賠償金(示談金)からその金額を差し引かれます。これを損益相殺といいます。
7.死亡事故で示談・損害賠償に迷われたら弁護士までご相談下さい
死亡事故で発生する損害の種類はケースによっても異なりますし、1つ1つの賠償金が高額なので遺族側が不利益を受けないように慎重に請求を進める必要があります。
ご遺族だけでは正しく算定できず不利益を受ける可能性も高まるので、茨城県周辺で交通事故に遭われた方はぜひとも一度、DUONの弁護士までご相談下さい。