死亡事故の保険金、慰謝料は誰に相続される?同時に死亡した場合の対応は
交通事故で被害者が死亡すると、遺族へさまざまなお金が支払われます。
たとえば被害者が生命保険に入っていたら、保険会社から保険金が支払われるでしょう。
また加害者側には慰謝料を始めとした賠償金を請求できます。
これらの保険金や賠償金、慰謝料は「誰が受け取れる」のでしょうか?
実は死亡事故で保険金や賠償金を受け取れる人は、お金の種類やケースによって異なります。
今回は、交通死亡事故で保険金や慰謝料を誰が受け取るのか、弁護士が解説します。
1.生命保険金は「受取人」が単独で受け取る
まずは「死亡保険金」がどうなるのか、みてみましょう。
1-1.死亡保険金は指定された受取人が受け取る
死亡保険金は、被保険者が死亡したときに生命保険会社から支払われる保険金です。
交通事故で死亡した人が生前に生命保険に加入していた場合、生命保険会社から「死亡保険金」が支払われます。このとき、死亡保険金を受け取れるのは「指定された受取人」です。
通常、生命保険の契約をするときには、契約者本人が死亡保険金の受取人を指定するルールとなっています。一般的には「配偶者」「子ども」「親」などの親族を指定するケースが多いでしょう。
このように契約者が事前に受取人を指定しているので、死亡事故が発生すると、指定された受取人が死亡保険金を受け取れるのです。
なお受取人が指定されていない場合には、保険会社の約款に従って「法定相続人」が受け取るのが一般的です。
1-2.死亡保険金は相続財産に入らない
指定された受取人が死亡保険金を受け取ったら、相続人同士で分け合わねばならないのでしょうか?
実は法律上、死亡保険金は「遺産(相続財産)」の範囲に入りません。保険金を受け取る権利は「受取人固有の権利」と考えられているからです。
指定された受取人が死亡保険金を受け取っても、他の相続人と遺産分割協議をして分け合う必要はありません。自分1人が死亡保険金を全額受け取れます。
また死亡保険金は遺産とは無関係の財産なので、受取人が相続人であれば保険金とは別に、通常の遺産も相続できます。
1-3.特別受益と評価されるケースもある
ただし死亡保険金の金額があまりに過大で他の相続人が遺産をほとんど受け取れない場合、受取人による単独の保険金受領を認めると不公平になってしまうでしょう。
そういった特殊事情があると、死亡保険金が「特別受益」と評価される可能性があります。特別受益となった場合には、死亡保険金の受取人がもらえる遺産の価額が減らされます。このように特別受益を調整するための計算方法を「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
1-4.特別受益の具体例
たとえば交通事故で父親が死亡して、長男が高額な死亡保険金を受け取る一方で、次男や三男が受け取れる遺産が少額なケースを考えてみましょう。この場合、長男の受け取る死亡保険金が「特別受益」と評価されると、長男受け取れる遺産額が減らされたり、場合によっては一切受け取れなくなったりします。
1-5.死亡保険金に関するまとめ
以上より、死亡保険金に関しては「特別受益」と評価されるような特殊なケース以外では、指定された受取人が単独で受け取れると考えましょう。
受取人は、生命保険証書に書いてあるのが通常です。まずは証書の内容を確認し、わからないときには生命保険会社に問い合わせて、保険金の請求を進めてください。
2.慰謝料や賠償金は「相続人」が相続する
死亡事故が発生すると、遺族は慰謝料などの賠償金も請求できます。賠償金は誰が受け取れるのでしょうか?
2-1.基本的には相続人が受け取る
死亡事故の慰謝料や逸失利益などの賠償金は「相続財産」となります。保険金とは違い、「相続人」が受け取って遺産分割しなければならないので、注意しましょう。
交通事故の慰謝料は不法行為による損害賠償金
死亡事故の慰謝料や逸失利益などの賠償金は「加害者の不法行為によって発生した損害賠償金」です。
不法行為とは、故意や過失にもとづく違法行為により、被害者へ損害を発生させる行為をいいます。不法行為をした加害者は、被害者に発生した損害に対する賠償金を払わねばなりません。
交通事故も1種の「不法行為」と評価されるので、加害者や加害者側の保険会社は被害者へ慰謝料や逸失利益などの賠償金を払わねばならないのです。
損害賠償請求権は相続人へ相続される
法律上、不法行為にもとづく損害賠償請求権は相続の対象になると考えられています。
そこで交通事故で発生する慰謝料や逸失利益も、被害者の相続人へと相続されます。
遺族が加害者や保険会社へ損害賠償請求を進める際には、ケースごとに「相続人の範囲」を正しく判断し、協力して手続きをしなければなりません。
民法の定める法定相続人の範囲と順位
民法が定める法定相続人の範囲と順位は、以下のとおりです。
- 配偶者は常に相続人になる
配偶者以外の相続人には順位があります。
- 子どもが第1順位の相続人
- 親が第2順位の相続人
- 兄弟姉妹が第3順位の相続人
相続人が複数の場合の対処方法
示談交渉で、相続人が保険会社へ賠償金を請求するときには、相続人の代表者を定めなければならないのが一般的です。保険会社は基本的に、個別的な遺族単独での示談交渉に応じないからです。
遺族がまとまりにくい場合や誰も代表者になりたくない場合には、全員が弁護士に依頼する方法が有効です。弁護士が窓口になればスムーズに示談交渉を進められます。
死亡事故で対応にお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
2-2.遺族固有の慰謝料の取扱い
死亡事故の慰謝料には、本人の慰謝料だけではなく「遺族固有の慰謝料」も含まれます。
被害者の死亡により、近しい遺族は非常に大きな精神的苦痛を受けるため、自らの精神的苦痛に対する慰謝料を払ってもらえるのです。
民法も、死亡した被害者の「配偶者、子ども、親」に固有の慰謝料請求権を認めています(民法710条)。裁判例では、これら以外の祖父母や兄弟姉妹などの遺族に固有の慰謝料を認めるものも存在します。
遺族固有の慰謝料については、遺族本人が受け取ります。遺産分割の対象にする必要はありません。
2-3.自賠責保険では内縁の配偶者にも権利が認められる
死亡事故で慰謝料を受け取れる遺族の範囲は、法律の規定と自賠責保険の規定とで異なるケースもあるので注意しましょう。
民法の規定によると、交通事故で慰謝料などの賠償金を請求できるのは、基本的には相続人のみとなります。配偶者や子ども、親などは相続人として慰謝料や逸失利益を請求できますが、内縁の妻や祖父母などには相続権がないので賠償金を請求しにくくなるでしょう。
特に任意保険会社と示談交渉を進めるときには、内縁の妻には慰謝料や逸失利益の請求が認められない可能性が高くなります。
ただし自賠責保険では、「遺族」に内縁の配偶者が含まれます。被相続人に内縁関係の妻や夫がいれば、自賠責保険から慰謝料が支払われます。
このように、法律にもとづく相続関係と自賠責保険とでは遺族の範囲が異なるので、特に内縁関係のご夫婦の場合には注意して対応しましょう。
3.複数の親族が1つの事故で死亡した場合の相続関係
交通事故が発生すると、親子や夫婦が同時に死亡してしまうケースも少なくありません。
複数の親族が同時に死亡すると、慰謝料や逸失利益の請求権は誰に相続されるのでしょうか?
3-1.同時死亡の推定がはたらく
民法は、1つの事故で複数の親族が死亡した場合には、「同時に死亡した」と推定する規定をおいています。
民法32条の2
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
この規定を「同時死亡の推定」といいます。「同時に死亡」するので、死亡した親族間で、お互いに相続は発生しません。
3-2.同時死亡の推定の具体例
たとえば夫婦が交通事故で死亡したとしましょう。夫婦には子どもがなく、夫には両親がいて妻には母親がいるとします。
この場合、夫婦が「同時に死亡した」と推定されるので、夫の遺産は妻に相続されず、妻の遺産は夫に相続されません。
夫婦には子どもがいないので、夫の財産は両親に相続され、母親と父親が2分の1ずつ取得します。
妻の財産はすべて母親に相続されます。
結果として、夫の分の慰謝料や逸失利益は夫の両親が請求し、妻の分の慰謝料や逸失利益は妻の母親が請求することになります。
死亡事故の保険金や慰謝料を誰が受け取るか、誰が示談交渉に対応するかは非常に複雑な問題です。お気軽に弁護士までご相談ください。