未成年者(子ども、学生)が死亡事故の被害者となったときの対処方法と注意点
子どもが交通事故で死亡してしまったら、親のご心痛は察するに余りあるものです。
当事務所にも死亡事故のご相談を寄せられますが、特に未成年者が死亡した事案では弁護士も心を痛めます。
交通事故の被害者が未成年の場合、死亡慰謝料などの損害賠償金はどのくらい請求できるのでしょうか?
子どもが飛び出したことによって交通事故につながった場合や親が目を離した隙に交通事故が発生した場合などの法律上の考え方についても知識をもっておきましょう。
今回は子どもや学生などの未成年者が死亡事故に遭ったときの対処方法や注意点について弁護士が解説します。
目次
未成年者が交通事故で死亡したときに請求できる賠償金
未成年者が交通事故で死亡したら、示談交渉に対応するのは通常親です。親は子どもの法定相続人として、子どもが取得する損害賠償請求権を相続するからです。
子どもや学生などの未成年者が死亡事故の被害に遭ったとき、請求できる賠償金は基本的に以下の3種類です。
- 葬儀費用
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
それぞれについてみていきましょう。
葬儀費用
子どもが死亡したら葬儀を出さねばなりません。葬儀費用は交通事故によって発生した損害といえるので、加害者へ請求できます。
基本的に150万円を限度として実際にかかった金額が支払われますが、必要があれば200万円程度まで増額されるケースもあります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故で被害者が死亡したことによって被害者本人や遺族が受ける精神的苦痛に対する賠償金です。
被害者は死亡した瞬間に強い精神的苦痛を受けるので慰謝料が発生し、それが遺族に相続されると考えられています。また子どもが死亡すると親は強い精神的苦痛を受けるので、親にも固有の慰謝料が発生しますし、祖父母や兄弟姉妹にも固有の慰謝料が認められる可能性があります。
子どもが死亡したときの死亡慰謝料の相場は2,000~2,500万円程度です。ただし事故が特に悲惨だった場合や加害者が悪質な場合などには慰謝料が相場より増額される可能性があります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは
死亡逸失利益とは、事故で死亡したことによって働けなくなり将来得られなくなった収入です。死亡すると被害者はその後の長い一生の間に得られるはずだった収入を得られなくなるので、それを損害として相手に請求できます。
死亡逸失利益は基本的に「事故前に労働収入を得ていた人」に認められるので、働いていなかった子どもなどの未成年には認められないとも思えます。
ただし子どもの場合「成人したら就職して収入を得る蓋然性が高かった」といえるので、逸失利益が認められています。
子どもの逸失利益の計算方法
死亡逸失利益を計算するときには、以下の計算式を適用します。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入(年収)×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
事故前の基礎収入に男女差が発生する
子どもの場合、実収入がないので「基礎収入(年収)」をいくらにすべきかが問題となります。これについては「全年齢、学歴計の男女別の平均賃金」によって計算されるのが通常です。男性の場合には年収558万円程度、女性の場合には年収382万円程度です(2018年度賃金センサス)。
ただ、上記をそのまま適用すると男児が死亡した場合に女児の逸失利益を大幅に上回ってしまいます。同じように幼児が死亡したにもかかわらず男児の方が高い逸失利益を認められる結果となり、不合理です。
そこで最近では、女児が死亡した場合には「全年齢の男女の平均賃金」を用いて計算を行うことにより調整しています。
男女の平均賃金は497万円程度なので男性の平均賃金よりは低くなりますが、女性の平均賃金を用いるよりは格差が小さくなるので、現状はこういった方法で対応しています。
学生の場合の基礎収入
学生の場合には、全年齢・学歴計の男女別の平均賃金ではない方法で基礎収入が算定されるケースがあります。
たとえば大学に進学していた方や進学する蓋然性の高かった方の場合、大卒の平均賃金を使う場合があります。現実に就職が決まっていた方の場合には就職先の賃金体系を基準に計算される可能性もあります。
高卒で働いていた方であれば実収入があるので、そちらを基準に逸失利益が計算されるのが通常です。
このように未成年者の死亡事故では、死亡した被害者の年齢や具体的な状況により、死亡逸失利益が異なる計算方法になります。
未成年者の生活費控除率について
死亡逸失利益を計算するときには「生活費控除率」を考慮しなければなりません。生活費控除率とは、被害者が死亡したことによって生活費がかからなくなる分を損害賠償金から減額するための控除割合です。被害者が事故で死亡したらその後一切生活費がかからなくなるので、相手に請求する逸失利益からその分を引かねばならないのです。
被害者が未成年者の場合の生活費控除率は以下の通りです。
- 男児・男性の場合…50%
- 女児・女性の場合…30%または45%
一般に生活費控除率は男性と女性とで異なります。基本的に男性の方が生活費を多く必要とすると考えられているので割合が高くなり、男性が50%、女性が30%となります。
ただし幼児などの年少者の場合、男女格差が大きくなるのは不合理なので女児の生活費控除率が修正され、45%として計算されるケースが多くなっています。
子どもが飛び出して事故につながった場合の減額処理について
小さい子どもの場合、飛び出しによって交通事故が発生するケースも少なくありません。子どもが飛び出して交通事故につながったら被害者である子どもの側の過失が高くなるので賠償金が減額されるのでしょうか?
確かに被害者が飛びだしやふらふら歩きなどの危険な行為を行っていたために事故が発生したら、被害者側の過失割合を上げられるのが原則です。ただし子どもが2歳や3歳などの幼児の場合には、子どもに事理弁識能力がないので飛び出しても過失相殺されないケースが多数です。
子どもが5~6歳くらいになってくると、子どもにも最低限の事理弁識能力が認められるようになり飛び出したことを考慮されて賠償金が減額される可能性があります。
親が目を離した隙に事故が発生した場合の減額処理について
小さい子どもの場合、親が目を離した隙に飛び出して交通事故に遭ってしまうケースがあります。
そのような場合「被害者側に過失がある」として賠償金を減額される可能性があり、注意が必要です。親が子どもから目を離したことが交通事故という結果につながったと考えられるからです。被害者本人だけではなく「被害者側の過失」が賠償金の算定において考慮されてしまうのです。
子どもが自分で判断できるくらいに大きくなっていれば親が目を離したからといって過失相殺されにくくなりますが、子どもが2、3歳などの幼児であれば親に責任を問われるでしょう。
また親以外の祖父母などが子どもを連れていた場合でも、同じ問題が発生します。子どもを連れて歩くときには、くれぐれも目を離さないように注意が必要です。
子どもが被害者の場合の過失割合修正について
子どもが交通事故の被害者となったときには、交通事故の「基本の過失割合」が修正されて加害者の過失割合が加算される可能性があります。
相手が子どもの場合、車やバイクなどの運転者は特に注意しなければならないと考えられるからです。
一般的な過失割合と比べて、被害者が5歳までの幼児なら10~20%程度、6歳以上の児童なら加害者側の過失割合が5~10%程度加算されます。
保険会社から過失割合の提示を受けたときには、子どもが被害者となったことによる修正要素が考慮されているかどうか確認する必要があります。
加害者の刑事責任、被害者参加制度について
交通事故で子どもを死なせたら、当然加害者には重い刑事責任が発生し、過失運転致死罪や危険運転致死罪が適用されて刑事裁判になる可能性が高くなります。
ただしご遺族は基本的に加害者の刑事事件に関与しません。遺族自ら加害者の刑事事件に参加するには「被害者参加制度」を利用する必要があります。
被害者参加制度を利用すると、毎回加害者の刑事裁判に出廷して情状証人や加害者本人に尋問をしたり裁判官に心情を述べたり求刑についての意見を述べたりできます。
子どもを失って「加害者を許せない」、「加害者の行く末を見届けたい」という親御様は、よければ利用を検討してみてください。
DUONでは交通事故でお子様やご家族を亡くされた方への支援体制を強めています。茨城県で交通事故被害に遭われたらぜひご相談下さい。